社会 特集:ビジネスと⼈権

企業の⼈権尊重への取り組みが重視されるなか、公益社団法⼈セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの兵頭様、堀江様のお⼆⼈およびファシリテーターとしてSDGパートナーズ有限会社の⽥瀬様をお招きし、リコーリースグループにおけるビジネスと⼈権の考え⽅・取り組みについてご意⾒をいただきました。

ミーティングの画像
  • 新型コロナウイルス感染症の感染予防に⼗分に配慮し、撮影しています。また、ファシリテーターはオンラインでの参加となりました。
①ファシリテーター
SDG パートナーズ有限会社
代表取締役 CEO
⽥瀬 和夫
ニューヨーク⼤学法学院客員研究員。1992年外務省⼊省。国連政策課、⼈権難⺠課、アフリカ⼆課、国連⾏政課、国連⽇本政府代表部⼀等書記官等を歴任。2014年退職。デロイトトーマツコンサルティング執⾏役員などを経て、2017年 SDGパートナーズ設⽴。
②公益社団法⼈セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
パートナーリレーションズ部
部⻑
兵頭 康⼆
約20年にわたり広告会社、事業会社にてメディア、営業、マーケティング部⾨を担当。2009 年セーブ・ザ・チルドレン⼊局。マーケティング、法⼈連携、ファンドレイジングの各部⾨⻑。セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルの企業連携推進担当、「NGOと企業の連携推進ネットワーク」アドバイザー。
③公益社団法⼈セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
アドボカシー部
部⻑
堀江 由美⼦
共同通信社を経て、英国⼤学院で開発援助を学んだ後、NGOの事業でカンボジアに駐在。2002年セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン⼊局。2010 年より開発援助政策、SDGsなどの政策提⾔を担当。現在は国内外の⼦どもの権利の実現に向けた政策提⾔をリード。
④リコーリース株式会社
代表取締役 社⻑執⾏役員
中村 徳晴
⑤リコーリース株式会社
取締役 常務執⾏役員
(サステナビリティ担当役員)
佐野 弘純
⑥リコーリース株式会社
執⾏役員 ⼈財本部⻑
荒⽊ 優⼀
⽥瀬
国連の指導原則が企業の責任を明⽰
本⽇は「ビジネスと⼈権」をテーマに、⼦どもの権利の視点を踏まえ座談会を進めていきます。2011年に国連で採択された「ビジネスと⼈権に関する指導原則」(UNGP)は、国家の⼈権保護の義務に加え、企業の⼈権尊重の責任を明⽰しており、この10年間で国際的な規範となりました。昨今は企業のサプライチェーンにおいて⼈権侵害や児童労働が注視され、ESG投資における優先度も上がり、UNGPにのっとって⽇本でも⼤企業を中⼼に⼈権デュー・ディリジェンスなどの取り組みが進んでいます。この潮流があるなか、まず中村社⻑からリコーリースの考え⽅についてうかがえますか。
中村
豊かな未来のために「正しい」ことを
私が社⻑に就任したのはコロナ禍の2020年です。在宅で仕事をしているときに屋外で遊ぶ⼦どもたちの声を聞いて、⼦どもたちのために豊かな未来を創っていかなければならないと感じました。それから⼈権問題を強く意識し、これを企業活動に落とし込まなければならないと感じました。経営理念に「私達らしい⾦融サービスで豊かな未来への架け橋となります」を掲げていますが、豊かな未来とはどんな未来なのか。⼤⼈だけでなく、⼦どもの未来でもあるわけで、このつながりを⽌めてはならないと。そのために、リース会社として⼈権に配慮した「正しい」ことに取り組む、駄⽬なことには取り組まないというスタンスを世の中に⽰すことが必要と考えています。
兵頭
⼦どもに配慮する会社の将来は明るい
今の中村社⻑の想いを聞いてリコーリースの将来は明るいと感じました。企業のサステナビリティ部⾨やCSR部⾨では⼈権問題は理解してくれても、⼦どもの権利までは経営層に話が通じないことがあります。⽇本の産業界もSDGsの流れで⼈権問題に取り組む企業が増え、先⾏する企業は⾃社だけでなく業界全体の課題として解決を図ろうとする動きも⾒られます。⼈権問題に関⼼の⾼い欧⽶では、取引先に児童労働を⾒つけると他社に切り替えるのではなく、その部分を正常化して取引を継続するようになっています。地域の雇⽤を維持し経済の停滞を防ぐためです。
堀江

⼦どもの権利の視点を⼊れたビジネス原則

現在は気候変動や⾃然災害などの環境問題や紛争の脅威があるなか、中村社⻑のように未来の世代への投資と捉え、責任あるビジネスを遂⾏する企業が増えましたね。ただ、UNGPには⼦どもの権利の視点がなかったので、2012年にセーブ・ザ・チルドレンが国連グローバル・コンパクトとユニセフと共同でつくったのが「⼦どもの権利とビジネス原則」(CRBP)の10原則です。⽇本語版は2014年に「公開」しています。

堀江由美⼦の写真
⽥瀬
リコーリースの⼈権問題への取り組み
ありがとうございます。続いてリコーリースの取り組みについて、荒⽊さんから⼈事⾯、社員の⼈権に関して、佐野さんからはサステナビリティ経営の観点からいただけますか。
荒⽊

⼀⼈ひとりの事情を鑑みた職場づくり

⼈事⾯では、経営理念の基本姿勢「⼀⼈ひとりが尊重しあい楽しくいきいきと働ける環境をつくります」に沿って、仕事のやり⽅・プロセスを考え、より良い職場環境づくりに努めてきました。以前の⽣産性や効率性のみを追求したその考えは改めています。現在は育児・介護の両⽴⽀援制度も拡充し、結婚・出産・育児で退職する⼈はほとんどいません。社会課題である男性の家事育児参加を後押しするために「育メン☆チャレンジ休暇制度」を始め、これも定着しています。働く場所や時間を⾃ら設定できる環境をつくることで、会社が活性化してきていると感じます。

荒⽊優⼀の写真
佐野
NAPにのっとった企業の⾏動計画が必要
私が⼦どもの頃は家の⼿伝いなどをしても、強制労働や児童労働を想像することはありませんでした。法治国家の⽇本でそうした問題が⾝近に起こることはまれでしょうが、グローバルなサプライチェーンでは問題が起こるケースもあります。2020年に国が策定した「『ビジネスと⼈権』に関する⾏動計画」(NAP)にのっとって、リコーリースが⼈権問題に真摯に向き合うための⽅針や⾏動計画をつくることが重要です。
⽥瀬
⼈権と教育は密接な関係にある
先進的な取り組みに敬意を表します。サプライチェーンの児童労働については国際労働機関のディーセントワークや、ESG投資のなかでウェルビーイングがいわれています。他⽅、⽇本の親の働き⽅が⼦どもの権利に影響するという観点の議論はあまりありません。⼈権と教育は密接な関係にありますが、その点で企業ができることは何でしょう。
堀江
教育は未来への投資であり基本的⼈権
NAPに関しては私たちNGOも働きかけを⾏い、横断的事項に「⼦どもの権利の保護・促進」、またCRBPも盛り込まれました。国にはこの周知と、企業が具体的な⾏動を取れるようさらに働きかけてほしい。リコーリースには、リース先の選定や投資基準に⼦どもの⼈権の視点を⼊れることで、世の中の企業活動を変える影響⼒があると感じます。コロナ禍で、在宅勤務が増えても家事や育児は⼥性が担い、またさまざまなストレスで家庭内不和、DV(ドメスティックバイオレンス)、児童虐待が増えています。⽇本では、児童福祉法と児童虐待の防⽌などに関する法律の改正で2020年に体罰が禁⽌されましたが、法施⾏後の国や企業による⽀援と啓発も重要です。教育は未来をつくる⼦どもへの投資であると同時に、基本的⼈権です。私たちも教育の無償化などを働きかけていますが、企業にも、教育を受けたくても受けられない⼦どもへのサポートや、親⼦のメンタルヘルスケアなどの⽀援を期待したいところです。
中村

⼦どもの個を尊重する価値観を醸成

私たちは現在、社内の⼀⼈ひとりが⼈権意識を⾼く持てるよう、社内研修や環境づくりを通して多様性を認め合う関係づくりを進めています。親も⼦どもを所有物ではなく個⼈として認めていくことが⼤切です。親や⽬上の⼈の⾔うことは絶対という価値観は古いので、令和時代に合った新しい価値観を醸成し、社外にも発信していきます。

中村徳晴の写真
荒⽊
社員同⼠が話し合い知識を⾼める場を
⼈財部⾨のコンセプトとして、「Happiness αt work」を掲げています。⼀⼈ひとりが⾃分のやりたいことを通じて幸せになる。その前提としてお互いを尊重し合う。そのために昨年から経営陣に経営理念やSDGsの教育を実施しています。今後は役員と社員、また社員同⼠でも話し合える場を増やし、社内の意識と知識を⾼めていきます。⼈事の⽴場では、⼈権と⾔えば、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを想像してしまいますが、親の転勤による⼦どもの権利への影響などはもっと考慮に⼊れていかなければならないと思いました。
佐野

将来に向け⼦どものファンを育てていく

企業では20代前半の新⼊社員と定年を迎えた60代の⼈たちが同じ職場で働いており、それぞれの価値観を踏まえて⾏動計画に落とし込む必要があります。中⼩企業のお客様にも⼈権問題に取り組んでいただけるようにUNGPをわかりやすくお伝えしていきます。また、⼦どもたちにも会社の取り組みを知ってもらい、将来のファンを育てていきたいと思います。⼦どもの頃のヒーローは⼤⼈になっても憧れですから。こうした観点がサステナビリティ経営において重要と考えます。

佐野弘純の写真
堀江
複数のセクターの対話で未来の実現を
すばらしいですね。サステナブルな社会を実現するには、政府、企業、NGO単独ではなく、異なるセクターで対話を重ねていくことが重要です。そこで共通の⽬標を⾒出して進んでいく。社内研修などはNGOとしてお⼿伝いできますので、ぜひお声掛けいただければと思います。
兵頭

リコーリースが社会を変える先⾏モデルに

本⽇はリコーリースのやることはもう決まっているなかで、強い決意をお聞きした印象です。中村社⻑の多様な個を認めるお話など、世の中の⼈たちに⼦どもに権利があることを認識してもらいたい。また、⾏動計画は中⼩企業も取り組むべきことなので、リコーリースが先⽴ってお取引先様に働きかけることで、お客様との絆も強くなり、社会を変えるきっかけにもなると感じます。

兵頭康⼆の写真
中村
健全な世の中の社会の実現を⽬指す
企業の役割はさまざまで、営利⽬的の側⾯もありますが、冒頭でも触れた「正しく」仕事をしていくことが重要です。健全な世の中で皆が公平に働ける、⽣活できる社会の実現をこれからも⼀緒に⽬指していきましょう。