中長期ビジョンに『循環創造企業へ』を掲げる、中期経営計画(2023〜2025年度)(以下、現中計)の1年目が終わりました。現中計において注力する各事業分野のなかでも不動産分野を中心に営業資産を積み上げ、増収減益となったものの、業績の期初予想をクリアすることができました。世の中ではコロナ禍が収束し、株価上昇など経済復調の機運が見えるなか、リコーリースグループは現中計のさらに先を見据え、豊かな未来の実現に貢献するため、私達らしい"地続き"の変異を続けています。
DNAの活用とマテリアリティへの取り組みを通じ
豊かな未来の実現を目指す
リース&ファイナンス事業を祖業とする当社グループの役割は、企業の新規事業や事業の多角化に伴う設備投資へのハードルを下げることです。企業の血液である資金を循環させることで、中小企業を中心としたお客様の事業活動を下支えしてきました。当社グループは経営理念「私達らしい金融・サービスで豊かな未来への架け橋となります。」を掲げています。「私達らしさ」には、これまで少額・小ロットの取引で積み上げてきた資産を基盤に、"地続き"の変異を繰り返しながら、お客様へ独自のサービスを提供し続けるという意味を込めています。
基盤となるのが、当社グループの強みである、約40万社に及ぶお客様との取引によるトランザクションデータです。当社グループはリコー製品の販売支援を行うリース会社として設立されました。2026年には50周年を迎えますが、これまでに蓄積してきたデータは私達のDNAと呼べるものとなりました。貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)には表れないこのデータを有効活用することで、世の中にない新しいサービスを生み出し、お客様の成長機会を後押しできると考えています。これは、VUCA(将来の予測が困難な状態)時代を生き抜くために、競合他社との差別化を図る源泉となるものです。
現中計の戦略立案の2軸は、「当社のDNAであるベンダーリースを軸としたトランザクションデータの活用」と「社会課題の解決」です。当社グループでは取り組むべき4つのマテリアリティ(「クリーンな地球環境をつくる」「豊かな暮らしをつくる」「持続可能な経済の好循環をつくる」「ハピネスな会社、そして社会をつくる」)を特定しており、マテリアリティごとに非財務目標を設定し、社会課題の解決を目指しています。この2軸の掛け合わせによって実現する私達の在り方が中長期ビジョンである『循環創造企業へ』だととらえています。
私はこの話をするとき、渋沢栄一の著書『論語と算盤』をよく例に挙げます。論語はマテリアリティ、算盤は企業の成長への貢献です。この両面から世の中に貢献し、当社グループの取り組みが評価されて収益を得ることで、経営理念に掲げる豊かな未来への貢献につなげていきます。
中計初年度、売上・利益は期初予想を上回る成果
分野別の事業成長戦略をさらに推進
現中計初年度の業績を振り返ると、売上・利益については一定の成果を出すことができました。売上高は4期ぶりの増収となり、前期比3.2%増の3,083億円、営業利益は、前年のコロナ関連レンタル特需の反動減により、210億円と減益になりましたが、リース・割賦の伸長などにより期初予想を上回ることができました。
営業面では、不動産分野における物流施設、レジデンス物件に係る信託受益権への投資の増加や、環境分野における太陽光発電や複数の大口割賦案件への投資拡大により契約実行高が増加し、業績に貢献しました。
当期純利益については、保有有価証券の一部に株価下落による減損があり、51億円の特別損失を計上したため、期初予想を下回る112億円となりました。当社は、ESG投資などを通じて取得した有価証券については事業機会の創出や協業の拡大を目的に保有し続けており、今回の減損対象となった有価証券も含め、各出資先との事業連携による協力関係は深まっています。
現在、中計2年目に入りましたが、外部環境を見渡すとコロナ禍がようやく収束し、今後はゼロ金利・低金利施策からの脱却により金利の上昇も見込まれ、長らく低迷していた経済や社会の脈動に明るい兆しが見えています。
経営においては、人的資本への投資が一層重要視されるようになります。リース会社はオーガニック成長だけでは生き残れなくなっており、新たな「変異」が求められる時代に突入しています。当社グループでは、こうした環境の変化に対応するべく、現中計で事業成長戦略と組織能力強化戦略を策定しています。
事業成長戦略は大きく分けて3つあります。1つ目は「効率を伴うさらなる拡大」であり、オフィス、医療・ヘルスケア、設備投資の3つの事業分野が該当します。これらの分野は、当社グループの成長を支える最重要基盤として効率性を高めながら拡大していきます。2つ目は、不動産、環境、介護が該当する「事業&サービス付加による多様化」です。これらの事業分野は、さらなる拡大に向けてサービスを変化させながら、収益の確保の仕方を考えていきたい事業領域です。3つ目は「新たなビジネスモデルへの挑戦」であり、as a Service 、BPO※の2つの事業分野が該当します。収益への貢献はこれからですが、ヒト・モノ・カネを集中的に投下し、将来の軸になると見込まれる事業領域です。
組織能力強化戦略として、「事業成長につながるチャレンジの促進および組織の活性化」「社会変化に合わせた柔軟なシステムおよび業務体制の構築」「関係会社を含めたガバナンス強化」の3つを設定しています。これら戦略に基づいて、さまざまな取り組みを推進しています。
- ※BPO(Business Process Outsourcing):業務プロセスの一部を専門事業者に外部委託すること
環境の変化に対応する事業成長戦略と組織づくり
リコーリースの事業は"地続き"の変異で進化する
当社グループの事業は、オフィス分野から始まっており、新たな分野を一つひとつ追加しながら事業を成長・拡大させてきました。しかし、成長分野のマーケットはすぐに飽和し、その次は効率を求められるようになります。そして、再び新しい分野に挑戦することになり、これが繰り返されます。
この一連の流れが"地続き"の変異です。この変異を繰り返すことで、事業の軸となる新しい分野を生み出したいと思います。これは生物の進化と同じで、事業活動もエラーを起こしながらも環境の変化に適応して、変異していくものです。変異を起こすことが挑戦であり、このような変異型のビジネスモデルを構築していることが、「私達らしさ」なのです。特に、現中計の事業成長戦略における as a Service分野および BPO分野は、成長の余地が十分に見込まれるマーケットととらえています。ここに経営資源を積極的に投資しながら、意図的に変異を起こしていきます。
変異はあらゆる場面において、さまざまな刺激によって起こります。大事なことは、会社としてその刺激を与える機会をいかに用意するかです。同時に、社員一人ひとりの気づく力も重要となりますので、プレッシャーをかけすぎない仕掛けを施し、変異を促していきたいと考えています。社員が日常の想いをもっと気軽に言葉として発することで、気づきが生まれるかもしれません。ですから、会社としても大上段に構えるのではなく、簡単にできることから環境を整えたいと考えています。
たとえば、現場と経営層のコミュニケーションの活性化に向けて役員を各事業所に招いて行う「みらくる座」(豊かなみらいをつくる車座ミーティング)、新規事業創出を目的とした社内提案制度「Mirai Creation」、営業や業務の好事例を表彰するイベント「Mirai Award」などのほか、女性リーダーシップ研修や後継者育成プログラム「RLみらい塾」などを通じて、社員が新たな知見を得られる場を提供しています。現場の社員からの「こうしたい」「他社ではこうしている」といったアイデアを吸い上げて具現化した人事制度もあります。今はまだ事業計画に組み込むには至っていませんが、こうしたアイデアが、社内制度の枠を超えてビジネスにつながることを目指します。
変異を考えるとき一つ注意したいことがあります。私は「変数は一つまで」とよく話します。例を挙げると、会社が海外へ進出するとしたら、どの事業で打って出るかを検討します。海外に出るという変数を一つ持った場合、既存事業の延長線でなければならないと考えます。海外で、新しい事業という二つ変数を持つと、それは地続きではなくなるからです。
現状では、新しい分野に踏み出す際に、世の中の課題に対応しながら数字をしっかりつくることができていて、総じて正しいやり方で「"地続き"の変異」ができていると思います。起業家は最初から成功パターンを見出しているわけではなく、彼らはバスケットボールで言う「ピボット」を踏んでいます。軸足を置いて向きを変えながら活路を見出していくのは、まさに"地続き"の変異です。実現するには経験が必要なので、今ある変異の幹を太くしていきながら、スピードを徐々に上げていくことで、会社の総合的な成長につなげていきます。
まずは資本効率を高め、その上で利益拡大を狙う
配当の基本方針は中長期的に安定した株主還元
前中計(2020〜2022年度)においては、稼ぐ力の向上によって利益成長を実現しています。この傾向を今後も維持しつつ、一方では新しい事業創出や施策に打って出ることが必要です。
現中計の最終年度である2025年度の数値目標は、営業利益235億円、当期純利益160億円、ROA1.1%以上、ROE7%以上を掲げており、配当性向は40%以上としています。この数値目標を達成するには、資本効率を高めながら利益を拡大させることが重要となります。たとえば、「新たなビジネスモデルへの挑戦」において、資産を使わない収益源を生み出していく。ノンアセットであるas a ServiceやBPO分野の強化は、そういう狙いから打ち出しています。
2023年3月には、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現」に関する要請があり、さらに、投資家からも資本コストを上回るROEの達成を強く求められるなか、これまでよりも資本効率について意識しなければなりません。当社においては、コロナ禍以前より、事業ポートフォリオごとの収益性を確保するため、事業分野別にハードルレートを定め、資本コストを意識した契約獲得活動を実践しています。この活動をさらに浸透させ、利益を拡大していきます。現中計の先には、2029年度の営業利益300億円という数値目標があります。これをどう実現するかは事業を走らせながら考えていきます。
2023年度には特別損失の計上によりROEが低下しましたが、現中計最終年度である2025年度には7%以上、2029年度には8%以上を目標として、分母の自己資本の適正化と分子の利益の拡大に取り組んでいきます。自己資本の適正化においては、自己資本の増加スピードのコントロールを目的に株主還元基本方針を変更しました。2023年度まで29期連続での増配となった配当の累進性を意識しつつ、2025年度に40%以上、2029年度に50%を目安にして、業界トップクラスの配当性向を目指していきます。
非財務目標に定めた4つのマテリアリティの意義
数値目標の設定で社員の主体的な取り組みを促す
当社グループのマテリアリティの一つである「ハピネスな会社、そして社会をつくる」は、経営の重要な基盤に当たるものであり、人的資本経営のベースとなる考え方です。現中計においては、エンゲージメントスコアを75点に高める、女性管理職比率を25%に高める、リスキリングなどの一人当たり教育費を55,000円に上げるなどを非財務目標とし、人事戦略を実践することで社員ハピネスの実現を目指しています。その上で、「クリーンな地球環境をつくる」「豊かな暮らしをつくる」「持続可能な経済の好循環をつくる」といったマテリアリティを定め、主体的に事業活動に取り組めるように定量化した目標を設定しています。目標値については、どれだけ社会へ良いインパクトを与えられるのか、それが企業価値向上にどれだけつながっていく指標なのかを「サステナビリティ委員会」で幾度となく議論を重ね決定しました。
この目標は、社員一人ひとりの業務がマテリアリティにどれだけ貢献しているかの進捗を測るためのものでもあり、明確な数値目標があることで事業の推進力が生まれます。目標達成に向けて何をすべきか、当社グループの経営理念に照らし合わせ、新たな事業活動の展開により、社会課題の解決に貢献していきます。
人的資本投資で社員がいきいきと働ける環境をつくり
新しいサービスの創出と、企業価値の向上を
現中計では、事業成長戦略における事業分野の取り組みと組織能力強化戦略により会社を成長させていきます。一つひとつの事業活動を誠実かつ着実に実行していき、 "地続き"の変異を繰り返しながら、お客様が求める新しいサービスを創出していく。これを実現するには、社員がいきいきと働いていることが重要であり、人的資本への投資を着実に行うことで社員が幸福を実感できる職場環境をつくっていきます。それが当社グループの業績の向上や事業の成長につながり、会社が持続可能な体質となることで、マテリアリティの達成も現実のものとなり、地球全体が持続可能になると信じています。
まずは、現中計の目標達成に全力を注ぎ、それを足掛かりにその先の数値目標を見据え、これまで以上に企業価値向上に努めていきます。そして、ステークホルダーの皆様の期待に応えていきたいと考えています。当社グループが目指す豊かな未来の実現に向けて気を引き締めてまいりますので、さらなるご支援をお願いします。