特集対談

円谷昭一氏と中村徳晴の写真
  • 企業価値向上を図るため 価値ある事業を⾏うだけでなく さらなるアピール⼒の向上を

リコーリースは「真⾯⽬」に誠実な事業展開をしているとの評価をいただくことがよくあります。その真⾯⽬さから⽣まれた特徴ある事業は社会にあまり認知されていないのが現実です。創業時から中⼩企業の⽀援を続け、社会課題の解決に寄与する事業を⾏う当社が、さらなる企業価値向上を図るためには何が必要なのか。⼀橋⼤学⼤学院経営管理研究科 円⾕昭⼀教授との対談を通して考えていきます。

  • 会社の真⾯⽬さは⼗分に伝わる 社会的価値のある事業のアピールを
円⾕
この対談前に、中村社⻑のインタビュー記事や統合報告書などを拝⾒し、真⾯⽬な会社だなと感じました。そのような社⾵は⼀朝⼀⼣ではできないのですばらしいと思います。中村社⻑は「あらゆる企業の設備投資のハードルを下げる」ことが創業の⽣い⽴ちと⾔われています。⽇本では企業の⼿元資⾦が投資に向かわないというマクロ課題があるなかで、貴社のビジネスは課題解決の⼀助となる可能性があります。その⽣まれながらの強みをもっとアピールするべきではないでしょうか。
中村
創業当時は、船舶や⾶⾏機、⼯場の⼤規模設備などの投資のために、銀⾏系などの⼤⼿リース会社の創業が相次ぎました。しかし、それらは⼤企業向けであり、中⼩企業が取り残されていました。そうしたなか、リコーがコピー機を世の中に普及させていく過程で、中⼩企業の設備投資の⽀援に向け設⽴されたのが当社です。その後、リースの対象をパソコン、⾞、医療機器と広げていきながら成⻑を続けてきました。現在、約40万社のお客様との取引がありますが、リース・割賦契約の平均単価は200万円以下であり、中⼩企業のお客様を⽀援するというスタンスは変えていません。
円⾕
それが⼤量のトランザクションデータという資産になっているわけですね。貴社への信頼の証とも⾔えるデータを活⽤し、「"地続き"の変異」を繰り返しながら、「私達らしい⾦融・サービスで豊かな未来への架け橋となります。」という姿を⽬指している。
中村
そうですね。当社では企業属性などの会社情報や取引履歴などの情報を参考にスコアリングを⽣成し、システム化することで、迅速かつ効率的に審査を⾏ってきました。そのデータは、AIを使った分析・評価を⾏うことで、審査精度の向上にも役⽴てています。変異には、経営側が意図的に変異させていくパターンと、社員がお客様から刺激を受けるなどの⽇常的な気づきから変異するパターンがあります。どちらも最初の変異は⼩さなものですが、それが何度も繰り返し起こることで⼤きなビジネスになっていきます。変異はエラーを意味しますが、社内ではどんどん変異して成⻑していこうと話しています。
円⾕
貴社が⽬指している“「事業を⼿掛ける⾦融会社」から「⾦融も⼿掛ける事業会社」へ”という⽅向性も、"地続き"の変異に沿ったものですね。
中村
現在では、介護施設の運営を⾏うとともに、介護事業者に対してファクタリングサービスを展開し、また、環境分野では、太陽光発電所の運営を⾏いながら、発電設備へのファイナンス提供により再⽣可能エネルギーの拡⼤に貢献しています。⾦融は、"⾎液"や"⿊⼦"にたとえられることがありますが、事業者の⽴場と⾎液である⾦融業の視点を持つことが当社グループの最⼤の強みです。その他の事例では、⽣産者の減少傾向が続く農業・畜産業が抱える社会課題に対し、⾁⽤⽜の資産価値に着⽬したABL(動産・債券担保融資)を通じて資⾦需要に応えることで、経営安定化を⽀援しています。
円⾕

そうしたユニークな事業も統合報告書に掲載したいですね。それが投資家の⽬にとまればカバレッジに⼊り、株価形成の潮⽬も変わるかもしれません。有料のアナリストレポートの作成・配信をしてもいいと思います。

円谷昭一氏の写真
  • 値上げを理解される顧客との関係性 社員には前向きな成⻑を求めたい
円⾕
顧客の⼤半が中⼩企業となると、利上げや値上げへの反発が起こるのではないですか。
中村
⽇銀がイールドカーブ・コントロールとマイナス⾦利政策を解除したことで、「⾦利のある世界」が始まっていますが、当社ではある程度の値上げはサービスの対価としてお客様にご理解いただいており、2018年頃から利回りも向上しています。事故率は低くリスク分散できているため、財務体質は健全です。
円⾕
将来に向けて資産効率、収益性を⾼める素地がある。貴社にそうした優位性があると資本市場に伝われば、よりバリュエーションも上がるのではないでしょうか。
中村
まずは、2025年度のROE7%以上を⽬標に、資本コスト経営を意識し、事業ポートフォリオを組み替えながら成⻑を図っています。
円⾕
現在はPBR1倍割れの対応として、政策保有株式の売却益で⼤型の⾃⼰株式を取得し、短期間のコーポレートアクションで巻き返すやり⽅が主流です。しかし、貴社は資本構成をドラスティックに変える会社ではない。事業を成⻑させて、配当で還元し、利益のボラティリティが少ないという構造があります。これらは株主に有利な条件なので、変異に時間がかかることを説明できれば、投資家や資本市場の評価も変わるはずです。また、育児や介護、パートナーの病気などにより時間的制約のある働き⽅を組織⻑が1ヵ⽉間仮想体験する「はぴねすトレーニング(はぴトレ)」や、男性育休取得率100%など特徴的な社内制度もあります。それで社内がどう変わったかもアピール材料になるはずです。
中村
最近では、新規事業の創出を⽬的とした社内提案制度「Mirai Creation」をブラッシュアップし、事業化まで進めば、1⼈200万円の報奨⾦を⽀給するとともに、管理職でない社員もその事業を主管する組織の組織⻑になれるようにしました。これは、起業家精神を⾝につけるトレーニングも兼ねています。ほかには、現場と経営層のコミュニケーションの活性化に向けて、各事業所からの要請に応じて役員を派遣する「みらくる座」も始めています。
円⾕
そうした取り組みの背景には、中村社⻑のどんな想いがあるのでしょうか。
中村
結局、⾃分を変えることができるのは⾃分だけです。私の社⻑任期にも限りがあり、その後はまた新陳代謝が起こります。⽬まぐるしく変化する社会環境のなか、⽇々の仕事をこなすだけでは思考が内向きになり成⻑は望めません。当社は当社にとっての最⼤の資産を⼈財ととらえており、その成⻑を実現するためには教育投資が必要と考えています。その成⻑が⼈財の質的な変化を促し、その変化が新たなビジネスの創出につながるものと考えています。
円⾕
現状維持ではなく、組織も⼈材も変えていくという強い意志をお持ちですね。それを⼟台として、次に⽬指すのは何でしょうか。
中村
個⼈的な理想を⾔えば、当社で仕事をすれば成⻑できる環境をつくりたいですね。たくさんの⼈が⼊社し、経験を積んで独⽴していく。そして、社外で揉まれて成⻑した⼈材が新しい価値観を持って、当社と再び関係するようなことが起きればおもしろいですね。
  • 多様かつ健全なガバナンス体制 取締役会は皆が当事者意識を持つ場に
円⾕
貴社は独⽴上場企業として、⼤株主のリコーやみずほリースとは別のガバナンス体制を敷かれていますね。取締役会の構成をお聞かせください。
中村

取締役会は、取締役が13名、うち社内取締役3名、⼤株主派遣の社外取締役2名、8名が独⽴社外取締役で構成されています。⼥性が3割を占め、多様性があり皆が当事者意識を持つ、ガバナンスの利いた役員構成です。取締役会の前に会社から議案に関する情報提供を⾏うことで、当⽇は中⾝の濃い活発な議論が⾏われる場づくりを⼼掛けています。また、中期経営計画策定時には、取締役会メンバーで半⽇のミーティングや合宿を⾏い、緊密な相互コミュニケーションを図ったことでかなり踏み込んだ議論ができました。

中村徳晴の写真
円⾕
取締役会以外の場で、社内・社外取締役のコミュニケーションの場はあるのですか。
中村
社外取締役のみが参加する議事録を取らない⾮公式の懇談会を設けているほか、私も課題認識の共有を適宜図っています。外部環境の変化を踏まえ、アドバイザーとセッションしており、その内容も共有しています。そうしたやりとりのなかで、社外取締役から「もっと会社のアピールをするように」と⾔われています。
円⾕
今⽇のテーマはそこに尽きますが、投資家が重視していることを探り、先⼿を打って開⽰していくべきです。社会的価値のある事業をされている貴社ですから、開⽰の仕⽅によって株価にも好影響があるはずです。
中村
投資家が求めるものを先⼿を打って開⽰していくのはもちろんのこと、マルチステークホルダーへ向けて開⽰やエンゲージメントなどの双⽅向のコミュニケーションを⼯夫、充実させていきたいと思います。本⽇はありがとうございました。