社長メッセージ

新中期経営計画ではビジネスに"地続き"の変異を起こし新たな循環を創造することで、「豊かな未来」に向けて加速していきます

コロナ禍において推進してきた前中期経営計画が終わり、2023年度より新中期経営計画が始まりました。中長期ビジョンの『循環創造企業へ』の土台づくりを終えた今、リコーリースらしさ(=強み)を活かし、既存ビジネスの強化と地続きの新規ビジネスの創出により、新しい循環を創造していきます。そして、新中計の経営戦略の実現には組織能力の向上が不可欠です。そのために私達が力を入れているのが、「変異」を起こす人財マネジメントです。

前中期経営計画では先の見えない経営の舵取りを求められるも
「稼ぐ力」の向上で、3年連続過去最高益を達成

2020年4月にスタートした前中期経営計画(以下、前中計)は、企業活動が大幅に制限され、海外情勢不安、物価高、原油高などが同時に起こり外部環境が激変するなか、リコーリースグループもこれまでとは違う経営の舵取りを求められた3年間でした。
この状況は誰もが予期できないことでしたが、当社グループでは前中計の初期から、リコーリースらしいサービスの価値をお客様に認めていただき、それに見合った価格で提供することにより、収益性(=稼ぐ力)にこだわった事業を展開してきました。その結果が財務目標の達成につながっています。特に、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益においては3年連続最高益となりました。
一方、営業資産残高は、半導体不足などによるサプライチェーンの混乱や、不動産市況の高止まりにより案件を厳選したこともあり、前中計の目標に届かず課題感が残りました。コロナ禍では営業活動がままならない時期もありましたが、その反面、可能な商談はオンラインで実施、対面での営業活動は人数を絞るなど、効率性を重視する営業スタイルが確立されました。また、フルリモートが可能になり、社員の働き方が自由度の高いものになるなど良い面もありました。
2023年4月からは、新中期経営計画(2023〜2025年度)(以下、新中計)をスタートしています。同時に、このタイミングで経営理念を一部改訂しました。新中計はバックキャスティングで策定しており、まずは目指すゴールである経営理念を固めておく必要があると考えたためです。具体的には、従前の経営理念の「金融サービス」に「・」を加え、「私達らしい金融・サービスで豊かな未来への架け橋となります。」としました。当社グループは金融系サービスの会社から、徐々にサービス系事業に軸足を移していきます。また、大切にするのは株主の皆様だけでなく、あらゆるステークホルダーへ、企業価値を高め社会に還元していくという共通認識を全グループ社員が意識するため、基本姿勢においては「企業価値の増大によりステークホルダーの期待に応えます。」としました。この一部改訂の準備段階として、前中計期間中は全国の拠点を自らの足でまわり、自らの言葉で社員と直接話す機会を大切にし、経営理念の浸透を図ってきました。以上のように、前中計では中長期ビジョン『循環創造企業へ』の土台づくりを着実に進めました。

トランザクションデータを活用し事業展開を加速
分野別の事業成長戦略を推進

新中計では経営理念の実現に向けて、中長期ビジョンに掲げる『循環創造企業へ』を見据えた事業を展開していきます。これまでもさまざまな社会課題に対して事業を通じ貢献してきましたが、これを4つのマテリアリティをベースに、さらなる社会課題解決へとチャレンジしていきます。各部門はただ目標数値を書いた事業計画を作成して終わりではなく、その事業計画は私達が解決すべき課題であるマテリアリティ、ひいては経営理念の実現につながるものでなければなりません。それにより私達のDNAであるベンダーリースで蓄積してきたトランザクションデータを新しいサービスに組み換えていき、私達のサービスに共感いただき、利用された企業が成長することで、自ら社会課題を解決していくという循環が生まれることを期待しています。このトランザクションデータは単なる取引データではなく、与信情報や付随する各種データとともに蓄積されています。問われているのは、それをどう活用していくか。ビッグデータの意図を持った活用が当社の強みの最大化につながると考えます。
新中計では注力分野として、as a Service、BPO※1を設定しています。BPO分野では保証事業を開始し、これまで蓄積した与信などのトランザクションデータを活用することで、事業展開を加速していきます。経営戦略には、効率性を軸とした既存ビジネスの強化と、地続きの新規ビジネスの創出による新しい循環の創造を掲げています。それを実践するための事業成長戦略は、3つの戦略、8つの事業分野にカテゴライズし、具体的な施策に取り組んでいます。

事業成長戦略

① 新たなビジネスモデルへの挑戦(as a Service、BPO)
② 事業&サービス付加による多様化(不動産、環境、介護)
③ 効率を伴うさらなる拡大(オフィス、医療・ヘルスケア、設備投資)

①の注力分野には、ヒト・モノ・カネを集中的に投下していきます。②は事業拡大を図る分野として、業績や資産の積み上げを伴って成長を期待する、伸びしろのあるボリュームゾーンととらえています。③は当社グループの成長を支える最重要基盤として、着実な成長を実現する分野ととらえており、効率性を高めながら拡大していきます。
これら8つの事業分野をベースに多様化した事業ポートフォリオの構築を進めていきます。目指すべき事業ポートフォリオを設定し、成長性と収益性の2つの観点から、ヒト・モノ・カネをどこに集中的に投下すればよいか、どこに資本配分すればどれだけのリターンが見込めるかなど、事業管理を高度化していきます。これにより、差引利益※2で、2022年度447億円から、2025年度530億円へ成長させてまいります。

既存ビジネス強化+新規ビジネス創出の図版

ビジネスを地続きで変異させる経営
Welfareすずらんを例に、堅実な成長を目指す

新中計には「地続き」と「変異」という2つのキーワードが登場します。株式会社Welfareすずらん(以下、Welfareすずらん)の例をもとに、これらを説明していきます。
当社グループではESG分野への投資の一環として介護分野の事業の強化を図るため、2022年、Welfareすずらんを子会社化し、介護施設を運営しています。当社は2011年より介護ファクタリングサービスを手掛けており、現在では約2,800の介護事業者のお客様にサービスを提供しています。
ファクタリングを利用する事業者にはキャッシュ・フローを改善したい、事業を効率化したいというニーズがあると一般的には考えられていますが、資金面での悩みが解決した時点でファクタリングの利用が終わり、当社との取引も終了となることがありました。そこで、私達がさらに介護業界に携わるためには、介護事業を深く学ぶことが必要であり、介護施設の運営を始めました。これは、介護ファクタリングサービスからの「変異」です。自ら運営することで、介護業界や介護事業者から学び、課題や成功事例などのノウハウからサービスを創出し、お客様へ提供することで、シナジーが生まれることを期待します。
「地続き」の「変異」には、トランザクションデータの活用が重要となります。このファクタリングも、当社グループが蓄積したトランザクションデータを活用することで、ファクタリングの与信が可能となり、リース&ファイナンス事業から「地続き」に「変異」させたサービスの一つです。
太陽光発電事業も同様に、最初は太陽光発電設備に対するファイナンスの提供のみを行っていましたが、自社による発電事業を手掛けるようになったことで、発電予測などのトランザクションデータや事業運営のノウハウを蓄積しました。そこから派生して、現在では発電事業者への支援サービスを提供しています。
非連続なことを実現しようとすると、どうしても大きなリスクが伴うこととなります。当社グループの特長は、地道かつ確実性高く、ビジネスを成長できる点にあると考えています。

中村徳晴の写真

組織能力強化のために3つの戦略を遂行
人財育成、ITシステム構築、ガバナンス強化

事業戦略を支える組織能力の強化に向けて、人財育成と組織づくり、ITシステム構築、ガバナンス強化の3つに取り組んでいます。経営において人的資本投資が重視される昨今、人財の価値をさらに上げていく必要があります。デジタル化で省人化が進むなか、人が関わる仕事を価値あるものに置き換えていかなければなりません。人が動くことの価値を高めようとするほど、単純な仕事はシステムに置き換えていく必要があります。
人事戦略に関しては、人財の確保を継続しながら、両輪で、社員への教育・リスキリングが重要となります。当社グループは人事・教育制度や福利厚生制度が充実しており、なかでも、人財育成プログラム「RL Academy」をはじめとした教育メニューが豊富です。各社員の意思で制度が活用でき、リスキリングにより、自身の価値や仕事の価値を高めることが可能です。多くの社員にこの充実した教育制度を活用してもらうべく、会社としても意識向上を啓発していきます。社員の価値を高めることは、お客様へのサービス提供の価値向上にもつながります。社員には、経営理念をはじめとした会社の方向性やマテリアリティを理解した上で、お客様の課題解決を踏まえた行動を期待しており、そのためにも人財投資が重要と認識しています。
当社グループの事業における重要な価値観の一つが、儲かればよいということではなく、経営理念に基づいて豊かな未来をどう残していくかであり、そこに人財も紐づいています。これを考えない事業に意味はありません。社内の案件審査を行う会議体でも、新しい案件を扱うときには、経営理念にどのようにつながるのか、どのような価値が提供されるのかということを常に問いかけ、価値が認められる案件が審査されています。
リース業界は、市場の変化に対して柔軟に対応していくことが求められ、業務の効率化・自動化は避けられない状況にあります。近年は、システムの整備やセキュリティ強化など社会からの要求事項が増えており、「より柔軟で安定的に」「より高効率、かつ高品質に」システムが進化することがビジネスの拡大につながります。関係会社を含めたITガバナンス体制の強化のためにも、ITシステムの構築に投資していくことで、将来のリスクの回避とビジネスの拡大を実現していきます。

社員に求める最重要スキルはコミュニケーション能力
人財を育て、「変異」を起こす環境を

当社グループの社員に一番求められるスキルは何かと問われれば、私は「コミュニケーション能力」と答えます。会社では独り善がりにならず、幅広い年齢層の人達と上手に付き合い、自分の考えをどう理解してもらうか、相手にどう判断させるかという能力が必要です。そこで諦めてしまう人は成長も止まってしまいます。
また、マネジメント層に求めるのは、そうしたコミュニケーション能力に長けた人財をどう育てられるか、どれだけ残せるかです。「金を残すのは三流、名を残すのは二流、人を残すのは一流」と、かの名監督であった野村克也氏※3が語られていますが、私もこの言葉に共感しています。
社会人になりたての頃は誰でも経済的な自立を目指すと思います。そのうちに肩書が欲しくなるかもしれません。しかし、お金のためだけではなく、地位や名誉だけを残すのではなく、優秀な人財を育成し後世に残すことに何よりも価値があると考えます。
会社に「変異」を起こす能力とは、勉強だけで身につけられるものではありません。「変異」を起こす能力は、然るべき環境に置かれて、実践や経験を重ねていくなかで花が開くのです。そのため、環境はとても重要です。たとえば、モチベーションが高く前向きに行動できる社員でも、画一的で行動が制限される環境のなかでは、組織にも自分にも限界を感じ、行動が抑制されてしまいます。その社員を復活させるには、どうしたらいいでしょうか。それは、組織に自由度を与え、さらに、そこに新しく可能性のある社員を投入し刺激を与えることです。すると再び、モチベーション高く行動できるようになり、組織も活性化することでしょう。「変異」を起こす人財の環境づくりには、ダイバーシティ&インクルージョンが欠かせず、絶えず人財育成を続けることが重要だと考えます。
私は、会社とは、社員の自由な発想や行動の広がりに合わせて拡大するものと考えています。成長して会社の枠組みから外れる人も出てくるかもしれませんが、大事なのはその可能性を抑え込まないことです。そのためにも、マネジメント層がいかに自由闊達な意見を言い合える場をつくれるか、心理的安全を担保できるかにかかっています。
そのような環境づくりの一環として、当社には新規事業のアイデアを提案する社内提案制度「Mirai Creation」があります。一つのアイデアを「変異」させることでサービスになり、事業部が立ち上がって本格的なビジネスになり、さらに「変異」させることで事業ポートフォリオに入る主要事業になるかもしれません。そうなったら、その社員に社長を任せるのもおもしろいと考えています。

新中計の最終年度に配当性向35%とし
堅実な事業成長で収益力と資本効率の向上を図る

企業価値向上という点からは、世の中は「PBR1倍」を基準とする傾向があり、それに対して私達も具体的な行動を起こさなければならないという課題感を持っています。目先の動きとしては、前中計の実績では配当性向を30%まで引き上げており、新中計では35%とし株主還元の向上を目指しています。ただし、企業価値向上という点ではこれだけでは物足りないので、社内で引き続き議論していきます。企業価値向上のために、根本的には収益力を高めることが課題です。株主還元をしっかりと行いながら、新中計におけるas a ServiceやBPOのように、より収益性の高い事業機会を見つけて投資していきます。新しい事業機会への投資と還元に関してはバランス感覚が重要となります。
当社グループは、着実な成長に定評があり、規模の大きなことを成し遂げるような派手さはありませんが、少しずつ積み上げていくやり方が合っています。今後も事業を堅実に成長させ、収益力と資本効率を高めながら、新中計に沿って推進していきます。当社のこれからの展開と発展に、ぜひご期待ください。

  • ※1
    BPO(Business Process Outsourcing):業務プロセスの一部を専門事業者に外部委託すること
  • ※2
    差引利益:売上高より資金原価を除く売上原価を差し引いた額
  • ※3
    日本の元プロ野球選手・監督(生前、医師であり政治家であった後藤新平氏の名言を大切にしていた)